自分に酔う

2003年7月3日
職員室のデスクから窓の外に目を向ける。外はすっかり闇に包まれていた。
 「もうこんな時間か・・」
あえて声に出したその訳は、自分自身に労いをかけるのと同時に、上司の教務主任へ「仕事に夢中でした」と言わんばかりのアピールも含まれる。
 だが誰も何も言ってはくれない。予定通りである。
 「お疲れ様でした。お先です」
 業者さんに送る速達封書を手に持ちながら挨拶を済ませ、職員室を出た。

 学校の目の前の交差点に目当ての郵便ポストがある。
 グッドタイミングでその脇には郵便局の回収車両が横付けされていた。
 この時間が最後の回収になるのは既に承知。明日の回収では仕事に支障をきたす。
 駆け足でポストに向かった。これが今日最後の仕事になる筈だった。

 「すいませーん。これもお願いします」
 「あっ、ポストに入れておいて下さい」
 「いや、今日出したいんですけど」
 「ごめんなさい。もう閉めたことになってるんで」
 なんと融通の利かない局員だろう。
 「どうしても今日出したいんですよ」
 「ごめんなさい。時間おしてるんで」
 バタン。
 ドアが閉められ郵便車両は走り去って行ってしまった。
 な、なんて奴だ・・・
 今頃、彼は車内でストレス解消の美酒に酔っているのだろう。「ケケケ。若僧を蹴散らしてやったぜ。スカっとしたぁ」などと。
 だが彼は知らない。
 私が簡単に諦めない人間であるということ。
 そして私は知っている。
 次の回収ポストが、ここから100メートル程離れた裏通りにあるということを。

 スーツのボタンを止める。
 目標は14秒。
 スタート。

 久しぶりの全力疾走。だが身体は軽かった。
 はぁはぁ。やった、間に合った・・・
 一方通行が仇となったその郵便車両は大回りをして間もなくやってくるはずだ。
 急いでポストに封書を入れ、足早にその場を後にする。
 直ぐに、正面から彼の運転する車がやってきた。
 うつむき加減で歩き、横を通りすぎる瞬間、彼の表情を盗んだ。

 満足そうな彼の表情もやがて驚きに変わるだろう。
 最後に酔うのはこの私である。

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yan

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